ナッジで動く組織へ|リーダーが語らずして人を動かす心理戦略

はじめに:なぜ「言っても動かない」のか?
多くの管理職・リーダーが直面する問題──それは「言っても動かない部下」の存在です。
指示は明確に伝えた。説明もした。それでも期待通りに動いてくれない。何度も同じ注意を繰り返す…。
この状況、もしかすると「能力」や「意欲」の問題ではなく、「環境設計」の問題かもしれません。
本記事では、行動経済学・ナッジ理論の観点から、「言葉に頼らずに人を動かす」ための心理的な仕掛けと組織設計について、遠藤貴則博士の知見も交えながら解説していきます。
ナッジ理論とは?|“そっと背中を押す”仕組みづくり
ナッジ(Nudge)とは、「行動を強制せず、自然と望ましい選択を促す仕組み」を意味します。
選択肢を奪うわけでもなく、命令するわけでもない。でも、気づいたら“そう動いている”。この設計の巧妙さこそ、ナッジの真価です。
例)
- 社員食堂の入口にサラダを配置したら、自然と健康的な選択が増えた
- 会議室予約ページで「終了時間の選択肢」を事前入力 → 時間超過が激減
ナッジは“仕組みを変えることで行動が変わる”を実現する科学です。
よくあるマネジメント失敗例とナッジ的改善
①「報告・連絡・相談が遅い」
→ 原因:心理的ハードル、優先順位の低さ
✅ナッジ的改善:
- Slackの初期投稿文を「ちょっとした相談歓迎です!」に変更
- 社内ツールで“報連相しやすい空気”をデフォルト化
②「会議で誰も意見を出さない」
→ 原因:最初の発言者が空気を支配、沈黙バイアス
✅ ナッジ的改善:
- 会議冒頭に“ランダム指名”機能を活用
- 「あなたならどう思う?」と個別入力欄を用意(ミーティングシートなど)
③「締切を守らない」
→ 原因:未来のことを軽視する“現在バイアス”
✅ ナッジ的改善:
- タスクの期限を「曜日+時間」で明示(例:金曜17:00ではなく“木曜17:00までに”)
- 「前倒し提出でチームポイントが貯まる」仕組みなど、報酬連動型の工夫
マネジメントとは環境設計である
私が考えるマネジメントとは、「“人をどう動かすか”ではなく“動きたくなる環境をどう設計するか”である」です。
これまでのように「注意する・指導する・育てる」といった“人に焦点を当てたマネジメント”ではなく、 “環境・仕組み・仕掛け”という外的要因にフォーカスすることで、人は自然と「動きたくなる」存在になるのです。
ナッジ理論はまさに、その代表的なツールであり思考フレームでもあります。
チームを動かす“ナッジ導入ステップ”
- 行動の「ズレ」を可視化する
- 例:理想の行動と現実のギャップをホワイトボードに図示
- 望ましい行動を明確化する
- 例:「こうしてほしい」という状態を1文で書く
- 小さな仕掛けを入れてみる
- 例:習慣トリガーになる場所や言葉を設定
- “ナッジの効果”を観察・微調整
- 数週間ごとに仕掛けを入れ替えたり、削ったり
まとめ:指示しないマネジメントが成果を生む時代へ
強いリーダーシップや圧力ではなく、“そっと背中を押す仕掛け”が、現代の組織には求められています。
言わなくても動く、けれどやらされ感がない。 そんなチームを実現するカギは、ナッジという「人間の脳と行動の構造に合ったマネジメント設計」にあります。
あなたの組織にも、まずは“小さな仕掛け”を1つ取り入れてみてください。 変化は、驚くほど静かに、でも確実に始まります。


世界40ヵ国以上から累計23万人以上が受講する国際的スピーカー、トレーナー、元アルビズ大学准教授。
アメリカ、オレゴン州のルイス&クラーク大学で心理学で学士を取り、フロリダ州のアルビズ大学にて心理学の修士と臨床心理学、法廷特化の博士号を取得。2015年にオレゴン州の臨床心理学者としての国家治療免状を得る。過去にアメリカ心理学会、国際心理学会、アメリカ法廷心理学会など数多くの学会で研究を発表している。
日本帰国後は日々実践できる科学をテーマにニューロマーケティング(神経マーケティング)、教育学、経営学、統計学などを教え述べ23万人以上の講演会を開催。