行動経済学の身近な例をやさしく解説|人の行動はなぜ変わる?

「なんとなく選んだはずが、気づけば同じ行動を繰り返している」。そんな経験はありませんか?
人の行動には、無意識の“クセ”や“選び方のパターン”が隠れています。行動経済学は、このような非合理な行動に着目し、日常やビジネスの現場で活用されている注目分野です。
本記事では、日常生活に潜む行動経済学の身近な例や実践理論をやさしく解説します。
行動経済学とは?“非合理な選択”にこそ意味がある
伝統的な経済学では、人は常に合理的な選択をする「経済人(ホモ・エコノミクス)」を前提としてきました。
しかし、実際の私たちは感情や直感、周囲の影響に左右されながら行動しているのが現実です。そんな“ちょっとした選択のクセ”に注目するのが、行動経済学です。
定義と特徴|人は論理より感情で動く
行動経済学とは、心理学の知見を取り入れて「人は必ずしも論理で動かない」という前提のもと、経済活動や意思決定を解明する学問です。
たとえば「限定セール」「本日限り」などの文言に反応してしまうのも、冷静な判断というより感情が先行している証拠。
企業のマーケティングだけでなく、大学の社会実験や自治体の政策設計にも活用されており、「人の行動のなぜ」を解き明かす重要な分野として広がっています。
代表的なバイアス一覧で見る“思考のクセ”
冷静に考えればこうするべき」と頭では分かっていても、私たちはいつも“そう”は行動できません。その理由の多くは、「バイアス」と呼ばれる思考のクセにあります。
<代表的なバイアス一覧>
損失回避バイアス
「得をする」ことより「損をしたくない」気持ちの方が強く働く心理です。たとえば「今だけ30%オフ」よりも「このままだと2,000円損するかも」と言われた方が、思わずクリックしてしまう…。それは、脳が“損”に敏感だからです。
確証バイアス
自分にとって都合のいい情報ばかりを集めてしまうクセです。「やっぱりこっちの方が正しいよね」と、反対意見を避けてしまう。SNSで偏った情報が広がる背景にも、このバイアスが潜んでいます。
アンカリング効果
「最初に見た数字」が、その後の判断を引っ張る心理現象です。例えば「通常価格9,800円」が目に入ったあとに「今なら5,800円」と表示されると、実際以上に“お得”に感じてしまいます。
デフォルト効果
選択肢を前にしたとき、つい「そのまま」を選びたくなる心理です。保険の特約、自動継続のチェックボックス、スマホの初期設定…。実は“最初から選ばれているもの”には、人を動かす力があるのです。
ヒューリスティック(直感判断)
「なんとなく」で選んだつもりが、実は脳のショートカットを使って判断している場合があります。パッケージの色、口コミの数、店員の態度…。こうした些細な情報が、私たちの選択を決める材料になっているのです。
身近な行動経済学の例|私たちはなぜ“つい”選ぶのか
行動経済学の面白さは、なんといっても“身近なあるある”に気づけること。いつも通っているコンビニ、なんとなく買った商品、その裏には私たちの心をくすぐる仕掛けがあるかもしれません。
日常生活の“あるある”に隠れた行動経済学
「レジ横のガムをつい買ってしまった」「あと数百円で送料無料なら、余計に注文してしまった」こうした経験、ありませんか? それこそが、行動経済学の知見が活かされた“仕組まれた選択”です。
- コンビニのレイアウトや陳列は、「ヒューリスティック」や「アンカリング効果」を意識して設計されている。
- ECサイトの「あと◯円で送料無料」は、損失回避バイアスを巧みに活用している。
- タイムセールや「今だけポイント10倍」は、限定効果で購買意欲を刺激する。
無意識のうちに動かされる選択。その理由を知ると、日常がちょっと面白く見えてくるはずです。
大学で実施された社会実験の実例
行動経済学の研究は、実験を通して“人の選択がどう変わるか”を検証するところに特徴があります。特に大学などの教育機関では、社会実験が多数行われています。
- 提出率UPを狙ったナッジ実験:提出期限の前日に「あなたの同期の80%がすでに提出済みです」と通知することで、提出率が10%以上向上した例もあります。
- 学食での健康行動促進:野菜メニューを目立つ位置に移動するだけで、注文率が大幅に増加したという結果も報告されています。
こうした社会実験は、「小さな工夫で人の行動が変わる」ことを証明する重要なデータとなり、企業や行政にも応用が進んでいます。
ビジネスで活きる!行動経済学の知見と応用術
行動経済学の知見は、マーケティングや営業、サービス設計、人事戦略など、あらゆるビジネスの現場で「人を動かす武器」になります。
ここでは、代表的な理論を具体的なビジネス活用例とセットでご紹介します。
ナッジ理論|“そっと誘導する”選択設計
ナッジとは「強制せず、自然と望ましい行動に導く」設計手法。人の“なんとなく選ぶ”を後押しするアプローチです。
- サブスクの申込み画面で「自動継続」が初期設定されている
- プラン比較表で「おすすめ」が目立つ場所に配置されている
- 健康食品を目の高さに並べて手に取られやすくする
これらはすべて、ナッジの力を使った設計です。心理を味方につけた小さな工夫が、売上や継続率に大きく貢献します。
行動経済学の「ナッジ」とは?やさしく学べる活用事例付きガイド
フレーミング効果|“見せ方”ひとつで選択が変わる
同じ情報でも「どう伝えるか」で人の判断は大きく変わります。これが「フレーミング効果」と呼ばれる心理現象です。
- ヨーグルトに「脂肪20%含有」と書くより「脂肪80%カット」と表示するほうが、健康に良さそうと感じる人が増える
- 「送料無料」より「送料0円」といった表記の違い
- 「成功率90%」と「失敗率10%」の比較
伝える側が「損か得か」「安心か不安か」といった印象の枠組み(=フレーム)をどう設定するかで、受け手の選択が変わることを示しています。
重要なのは、事実は変えずに「受け取り方」をデザインすること。フレーミング効果を活かすことで、説得力のある訴求や購買意欲を高めるコピーが作れるようになります。
行動経済学の「フレーミング効果」とは?ビジネスにも役立つ心理効果
プロスペクト理論|“得”より“損”が人を動かす
人は「得られる利益」より「失う恐れ」に強く反応します。これが、プロスペクト理論の根本です。
- 「今だけ1,000円割引」よりも「今買わないと1,000円損」と訴求
- 「残り3点」や「本日限定」の表現で即決を促す
- 解約時に「ポイント失効」や「特典が消える」と伝える
“損したくない”という気持ちは、購買を一気に加速させる強力なエンジンになります。
行動経済学のプロスペクト理論とは?損失回避の心理をわかりやすく解説
サンクコスト効果|“もったいない”心理を活かす
人は「ここまで時間やお金をかけたのだから…」という理由で、本来ならやめるべき行動を続けてしまいます。
- 高い初期費用をかけたサービスの継続利用を促進
- お試し期間のあとに自然と有料プランへ移行させる設計
- 「せっかく登録したから」「ここまでやったから」型のキャンペーン
“もったいない”という感情は、顧客の行動を止めにくくする一種のブレーキでもあります。
ハロー効果|“第一印象”で全部よく見えてしまう
「この人が推してるならきっといい」「パッケージが高級だから中身も上質」そんな印象の錯覚を生み出すのがハロー効果です。
- 有名人やインフルエンサーが使っているという情報で信頼感UP
- 高級感のあるデザイン・店舗内装が品質の高さを演出
- 「創業100年」「No.1受賞」などの実績を前面に出す
たった1つのポジティブな要素が、全体の評価を押し上げるのがハロー効果の力です。
損失回避バイアス|「失うこと」への強い反応を活かす
人は「得をすること」よりも「損をしないこと」を優先して行動します。損失回避バイアスは、その心理に寄り添った戦略です。
- ECサイトで「今だけ1,000円割引」ではなく「このままだと1,000円損するかも」と訴求
- サブスク解約画面で「特典が失われます」と注意表示
- セール最終日には「買わなければ損」というメッセージを強調
“不安”を軽くつつくように提示することで、行動を促す効果があります。
アンカリング効果|最初に見た数字が“基準”になる
最初に提示された情報が、その後の判断に大きな影響を与える。これがアンカリングの原理です。
- メニューで一番高価なプランを先に提示→他プランが割安に見える
- セール前価格を見せてから割引後価格を提示
- 高額商品のあとにミドル価格を見せることで「お得感」を演出
「比較して得した気になる」よう設計された順番や価格表示は、顧客の納得感を後押しします。
選択肢のパラドックス|“迷わせない”ことが選ばれるカギ
選択肢が多すぎると、人は決断できなくなります。これが「選択のパラドックス」です。
- プラン比較は“3つ”に絞って提示(迷いが減る)
- 「いちばん人気」のラベルをつけて選択を後押し
- 似た選択肢が並ばないよう視覚的に整理する
“選びやすい環境”を用意することが、購入のハードルを下げる重要な要素となります。
社会的証明|「みんなやってる」は最強の説得材料
人は「他の人がどうしているか」を大きな判断材料にします。これが社会的証明の力です。
- 「90%の人が選んでいます」という表示で安心感を演出
- 「売上No.1」「〇〇ランキング1位」のラベルをつける
- 「〇〇さんがこの商品を購入しました」というポップアップ表示
“みんな使ってる”という情報は、信頼感と購買意欲を同時に高めます。
現状維持バイアス|「変わらないこと」を好む心理に働きかける
人は今の状態を変えることに不安や面倒を感じ、現状を維持しようとします。
- 初期設定を「自動継続」にすることで、継続率がアップ
- 登録時に「メール受信に同意する」にチェック済み
- オプトアウト(解除方式)よりもオプトイン(申込み方式)を避ける設計
「とくに選ばなくてもこのままでOK」という状態が、無意識の行動に大きく影響します。
初心者におすすめの行動経済学の本
行動経済学は専門的なイメージを持たれがちですが、近年は一般読者向けの書籍も多く出版されています。
「まずは全体像を知りたい」「実生活で使える知識が欲しい」という方に向けた3冊です。
- 『実践 行動経済学(Nudge)』リチャード・セイラー/キャス・サンスティーン著
──ナッジ理論の原点。健康・年金・行政施策など幅広い事例が魅力。 - 『予想どおりに不合理』ダン・アリエリー著
──「人はなぜ非合理な選択をするのか?」が身近な例でテンポよく学べる名著。 - 『ファスト&スロー』ダニエル・カーネマン著
──ノーベル経済学賞受賞者による決定版。人間の2つの思考システムを軸に行動の裏側を探る。
これらの本はいずれも「日常のなかの行動経済学」を明快に教えてくれるため、ビジネスパーソンや学生、マーケターにも最適です。
まとめ|日常に潜む行動経済学を味方につけよう
行動経済学は、私たちの“つい選んでしまう”行動の裏側にある心理を解き明かしてくれる学問です。「なぜその商品を買ったのか?」「なぜ面倒な選択を避けたのか?」そこには論理だけでは説明できない“思考のクセ”が潜んでいます。
ナッジ、プロスペクト理論、アンカリング効果、サンクコスト……。これらの理論は、マーケティング・商品開発・接客・教育・行政など、あらゆる分野で“人の行動”をより良く導くためのヒントになります。
そして大切なのは、「人を操作する」のではなく「人が納得して動ける環境をつくる」こと。行動経済学の知見を活かせば、売上や成果だけでなく、“満足感”や“信頼”まで生まれる。だからこそ、行動経済学は「未来を変える設計図」ともいえるのです。
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法廷臨床心理学博士・ニューロマーケティング(脳科学マーケティング)トレーナー
株式会社ビジネスサイエンスジャパン取締役。ビジネスサイエンストレーニングアカデミー学長。
1985年東京都文京区生まれ。神奈川県横浜市のサン・モール・インターナショナル・スクールの高校を卒業。
2006年米国オレゴン州ルイス&クラーク大学にて心理学専攻及び中国語を副専攻で大学卒業。
2008年米国フロリダ州アルビズ大学大学院にて心理学修士課程修了。
2013年同大学院臨床心理学博士号、法廷特化で卒業(博士論文Doctoral Project:Endo, T. K. (2012) Test Construction: Clinician’s Gay Male Competence Inventory. (Doctoral dissertation, Carlos Albizu University)。後、オレゴン州にて臨床心理学社の国家治療免状を獲得。マイアミ市警、FBI、CIAの調査支援を行った実績を持つ。
2017年には薬物依存人口を減らした功績を称えられ、2017年フロリダ州ジュピター市より表彰される(2017 Best of Jupiter Awards - Drug Abuse & Addiction Center)。現在は実践的ビジネスサイエンス、実践的心理学、脳科学的教育、ニューロマーケティングの普及、後進の育成に努める。著書に『売れるまでの時間-残り39秒 脳が断れない「無敵のセールスシステム」』(きずな出版)、共著に『仕事の教科書』(徳間書店)がある。