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行動経済学で読み解く「アンパンマン」の人気の秘密とは?

行動経済学で読み解く「アンパンマン」の人気の秘密とは?

「なぜアンパンマンは子どもたちにこれほどまでに愛されるのか」と疑問に感じたことはありませんか?

本記事では、行動経済学の視点からアンパンマン人気の秘密を深掘りし、子どもたちの心をつかむ仕掛けを明らかにします。

教育・ビジネス・育児に役立つ知見として、身近なキャラクターを通して行動経済学を楽しく学びましょう。

アンパンマンの魅力を行動経済学で読み解く

 なぜ子どもはアンパンマンに惹かれるのか?

アンパンマンが子どもたちに絶大な人気を誇る理由の一つは、そのシンプルさと一貫したストーリー構成にあります。

行動経済学の視点から見ると、これは「認知負荷の軽減」による効果といえます。

人間は選択肢が多すぎると混乱し、判断を避ける傾向がありますが、アンパンマンの世界は登場キャラクターが明確に善と悪に分かれており、ストーリーも「困っている人を助ける」というシンプルな構造を持っています。

これにより、子どもたちは直感的に話の流れを理解でき、安心感と満足感を得られるのです。

アンパンマンの人気を示す具体的なデータとして、バンダイが実施した「お子さまの好きなキャラクターに関する意識調査」があります。この調査では、アンパンマンが0~2歳の未就学児から圧倒的な支持を受け、男女問わず1位となっていることが明らかになっています。

また、3~5歳の男子でも2位にランクインしており、幅広い年齢層から支持を得ていることがわかります。バンダイ株式会社バンダイナムコホールディングス

このようなデータは、アンパンマンが子どもたちにとって親しみやすく、魅力的なキャラクターであることを示しています。

行動経済学の視点から見ると、アンパンマンの一貫した世界観やキャラクターのネーミング、視覚的なデザインなどが、子どもたちにとって親しみやすく、記憶に残りやすい要素となっていると考えられます。また、アンパンマンの関連商品や施設、食品などの幅広い商品展開も、子どもたちの購買行動に影響を与えていると考えられます。

これらの要素を踏まえ、アンパンマンの人気の秘密を行動経済学の視点から解明することができるでしょう。

さらに、同調査では「毎週見る番組」としてもアンパンマンの視聴継続率が非常に高く、これは単なる一過性の流行ではなく、「生活習慣の中に自然と組み込まれている番組」であることを意味します。

このような定着性の高さは、ブランドとしての信頼や、子どもにとっての安心材料としての役割を果たしていることを示唆しています。

さらに、アンパンマンは「顔をちぎって与える」という強烈な自己犠牲のモチーフを持ち、視聴者の共感を得やすい設計になっています。これは「感情ヒューリスティック(感情が判断に影響を与える心理効果)」とも関連し、視聴者が深く感情移入することで記憶に残りやすくなります。

このように、アンパンマンの人気はただの「かわいいキャラクター」にとどまらず、子どもたちの認知や感情に自然に訴えかける設計思想がベースにあります。

行動経済学の理論と照らし合わせることで、その設計の奥深さがより明確になります。

感情に訴える設計:損失回避と安心感

アンパンマンの物語構造は、行動経済学でよく知られる「損失回避バイアス」と深く関係しています。

人間は「得をすること」よりも「損をしないこと」に強く反応する傾向があり、これはプロスペクト理論でも示されている通りです。

アンパンマンが毎回「困っている誰かを助ける」というストーリー展開は、視聴者に「誰かが困っている=損失の状況」を提示し、その損失を回避・回復する様子を描くことで、視聴者の心に強く残ります。

また、毎話必ず「アンパンマンが勝つ」という安心できる展開も、子どもたちにとっては大切な心理的安定要素です。

これは、ルーティン化されたストーリーによる予測可能性が「認知的不協和(不確実性からくるストレス)」を軽減し、安心感をもたらしていると考えられます。

このように、アンパンマンの世界観は「損をしないで済んだ」「助かってよかった」という感情を自然に引き出すよう設計されており、それが子どもの心を掴んで離さない理由の一つとなっています。

プロスペクト理論と「正義の味方」の関係

プロスペクト理論とは、人が「利益」よりも「損失」に対して敏感に反応するという理論です。

この考え方は、アンパンマンの「助ける・奪われたものを取り戻す」行動と非常に似ています。

毎回、パン工場や町の仲間がばいきんまんに被害を受けるという損失の状況が提示され、それに対してアンパンマンが「顔をあげる」「助ける」という回復を行う。

この流れは、損失を避けたいという私たちの本能的な感情を強く刺激します。

さらに、アンパンマンが常に「正義の味方」として登場することにより、「悪いこと(損失)」が起こっても、「正義が勝つ(損失は回避される)」という物語の安心感が生まれます。

この「正義が勝つ」という前提は、私たちが確実に得られる回避を好む傾向、つまり「リスク回避」にも通じます。

この理論は、アンパンマンのようなヒーローが毎回勝利するという設定が、子どもたちにとって安心感を与える要因となっていることを説明するのに有効です。カーネマン, D. & トヴェルスキー, A.(1979)『プロスペクト理論:リスク下の意思決定分析』Econometrica, 47(2), 263-291.

このように、プロスペクト理論の「損を避けたい」という心の動きが、アンパンマンの「困っている人を助ける」という行動と完全に合致しており、それが視聴者の共感や安心感を高めているのです。

ヒューリスティックが与える影響とは

ヒューリスティックとは、人間が複雑な判断をするときに用いる「直感的な思考の近道」です。

すべての情報を詳細に分析するのではなく、「見たことがあるから安心」「聞いたことがあるから信用できそう」といった印象で判断する、いわばなんとなく良さそうという感覚です。

アンパンマンは、このヒューリスティックが自然と働く設計が随所に見られるキャラクターです。

たとえば、毎回似たようなストーリー展開、ばいきんまんが悪さをし、それをアンパンマンが助けるという流れや、「アンパンチ!」というお決まりのセリフや音楽、そして丸い顔・赤と黄色の目立つ配色・やさしい声と表情などが繰り返されることで、子どもたちは直感的に「これは安心できる存在だ」「味方である」と認識しやすくなります。

このような仕組みは、心理学で知られる「単純接触効果(mere exposure effect)」にも通じます。

社会心理学者ザイアンス(Zajonc, 1968)の研究によれば、同じ対象に繰り返し接すると、その対象への好意度が自然と高まることが明らかになっています。Zajonc, R. B. (1968). Attitudinal Effects of Mere Exposure. Journal of Personality and Social Psychology, 9(2), 1–27.

アンパンマンのように、毎回同じ要素が繰り返されるコンテンツは、子どもにとって非常に安心できる存在となり、深い分析をしなくても「なんとなく好き」と感じやすくなるのです。

また、この「直感的な信頼」は、行動経済学でいう「感情ヒューリスティック(affect heuristic)」とも関係しています。

これは、好きや安心といった感情が、判断そのものに強い影響を与えるという理論で、特に幼い子どもほど、この影響を受けやすい傾向があります。Kahneman, D. (2011). Thinking, Fast and Slow. Farrar, Straus and Giroux.

つまり、アンパンマンは「繰り返し」「シンプル」「好意的な感情」をうまく活用することで、見る人の中に分析しなくても信じられる存在として自然に定着しているのです。

こうした構造そのものが、アンパンマン人気の心理的・行動経済学的な土台となっているといえるでしょう。

キャラクター人気の心理的な仕組み

共感と自己投影:アンパンマンのシンプルな性格

アンパンマンが多くの子どもに愛される理由のひとつに、「共感しやすさ」があります。

特に幼児期は、感情の発達が著しい時期であり、複雑なストーリーや性格よりも、シンプルで分かりやすいキャラクターに親しみを感じやすくなっています。

アンパンマンは「困っている人を助ける」「自分の顔を差し出して相手に元気を与える」という一貫した行動原理を持っており、見る側はその分かりやすい行動に安心感を覚えます。

これは行動経済学でいうところの「同調バイアス」や「自己投影性」にも関連しています。

つまり、視聴者が自分自身の理想や願望をキャラクターに重ねることで、より強く感情移入するのです。

特に子どもは、「自分も誰かを助けたい」「優しい人でいたい」といった気持ちをアンパンマンに投影する傾向があります。

また、内閣府の「子ども・若者白書(令和4年度版)」令和 4年版子供・若者白書によると、子どもが好むキャラクターに共通している特徴として「正直」「優しい」「頼りになる」が上位に挙げられており、アンパンマンはこれらすべてを体現しているキャラクターだといえます。

アンパンマンの人気の秘密は、複雑さではなく共感できるわかりやすさにあるといえるでしょう。

バイアスと刷り込み:繰り返し登場するストーリーの効果

アンパンマンの物語には「繰り返しのパターン」が多く使われています。

行動経済学の観点から見ると、これは「確証バイアス(confirmation bias)」や「ザイオンス効果(mere exposure effect)」といった心理効果と関係があります。

確証バイアスとは、自分がすでに知っている情報や期待している展開を好む傾向のことで、ザイオンス効果は、繰り返し接することで対象に対する好感度が高まる現象を指します。

アンパンマンのストーリーが何度も同じような展開になるのは、この効果を意識した設計とも読み解くことができます。

実際に、NHK放送文化研究所が発表した「幼児とテレビ視聴に関する調査(2020年)」幼児のコンテンツ視聴の実態を把握する新たな試み|NHK放送文化研究所によると、2~4歳児が「何度も同じ話を見たがる」傾向が強いという結果が出ています。

これは、子どもが変化よりも予測できる安心感を求めることを示しています。

また、繰り返されることでアンパンマンの正義感や優しさが強く刷り込まれ、「良いことをすると褒められる」という価値観が自然と学ばれていくのです。

教育的な効果も高いとされており、実際に多くの幼児教育関係者がアンパンマンを「善悪の判断を学ぶ教材」として評価しています。

このように、繰り返しのパターンは、単なる演出ではなく、心理的・教育的にも非常に有効な手法なのです。

親しみやすさの裏にある認知の仕組み

アンパンマンが子どもたちにとって「親しみやすい存在」である背景には、行動経済学や認知心理学に基づいた工夫が数多く隠されています。

その一つが、視覚や言語の両面から働きかける認知的な仕組みです。

まず、アンパンマンの顔は「円形」「大きな目」「丸い鼻」など、幼児が認識しやすい基本的な図形で構成されています。これは、人間の脳がシンプルで対称的なものに親しみを感じやすいという「ゲシュタルト心理学」の原理に合致しています。

さらに、赤ちゃんが好む色とされる赤や黄色を基調とした配色も、視覚的な親しみやすさを高めています。

眼科医によると、生後間もない赤ちゃんは目の機能が未熟であり、明るい暖色系や丸型の形状に興味を持ちやすいとされています。 のびこ

また、名前の構造にもヒューリスティックが影響しています。

「アンパンマン」という名前は、日本語の中でも発音しやすく、語感もやさしい音で構成されています。

これは「処理流暢性バイアス(processing fluency bias)」と呼ばれ、覚えやすく、言いやすい名前ほど好感を持たれやすいという理論で説明できます。実際に、言語学者の今井むつみ氏は、幼児が「アンパンマン」という言葉を好んで連呼する理由として、発音のしやすさや音の響きの良さを挙げています。 PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

このように、アンパンマンの「親しみやすさ」は偶然ではなく、子どもの認知特性を踏まえて緻密に設計された結果だと言えるでしょう。

キャラクター制作においても、このような見た目の認知心理を意識することは、長く愛される存在を生み出すうえで非常に重要なポイントです。

アンパンマンとマーケティングの関係

 ブランドとしての「アンパンマン」の設計

アンパンマンは、単なるキャラクターという枠を超えた「ブランド」として、極めて巧みに設計されています。

これは行動経済学でいう「感情価値(emotional value)」や「認知的一貫性(cognitive consistency)」を活かした戦略であり、視聴者の記憶と好意を長期的に維持するための工夫が随所に見られます。

まず、アンパンマンの世界観は非常に一貫しています。

すべてのキャラクターに「◯◯パンマン」や「〜ちゃん」といった統一感のあるネーミングがされており、子どもたちは自然と「この世界のルール」に親しみを覚えやすくなります。

これは「スキーマ理論(schema theory)」に基づく設計で、人は一貫した枠組みの中で情報を処理する方が安心でき、記憶にも残りやすいという心理を利用しています。

また、アンパンマンのロゴ、色使い(赤・黄色・黒のコントラスト)、メッセージ(「困っている人を助ける」)も一貫しており、「ブランドとしての認知」が強化されています。

企業のCI(コーポレート・アイデンティティ)にも似た手法で、子どもだけでなく保護者にもブランドの価値が伝わりやすくなっているのです。

さらに、「やなせたかし記念館アンパンマンミュージアム」や関連ショップなど、世界観を体験できるリアルな場の提供も行われており、ブランド価値の強化につながっています。アンパンマンミュージアム

これは「体験価値経済(experience economy)」の理論にもつながるもので、商品やキャラクターの価値を体験を通じて消費者の中に深く根付かせる戦略です。

こうした一貫性と世界観の徹底が、「アンパンマン=信頼できるブランド」として親と子どもの双方に刷り込まれていくのです。

購買行動に与える影響:グッズや関連商品

アンパンマンは、テレビアニメや絵本だけにとどまらず、グッズや商品展開でも圧倒的な影響力を持っています。

その仕組みには、行動経済学で知られる「ナッジ理論」や「選好の構築(preference construction)」が活用されていると考えられます。

たとえば、スーパーやドラッグストアでよく見かける「アンパンマンのお菓子」「アンパンマンの歯ブラシ」「アンパンマンのベビーソープ」などの日用品は、子どもにとっては“欲しい”もの、親にとっては買わせやすいものとして非常に機能的です。

これは、行動経済学でいう「選択アーキテクチャ」の最適化です。

つまり、「子どもが駄々をこねない」「買えば喜ぶ」「使えばスムーズに行動してくれる」といった前提があることで、親の購買行動が自然と誘導されていくのです。

また、子ども向けキャラクター商品の中でも、アンパンマン関連商品の売上は群を抜いています。

このような実績からも、子どもだけでなく親の購買意思決定においても「アンパンマン=信頼できる・使わせやすいキャラクター」という強いイメージがあることがわかります。

加えて、アンパンマンは単なるキャラクターではなく、「教育性のあるブランド」として保護者からも評価されています。

これは、行動経済学における「社会的証明(social proof)」の一例です。

多くの親が「アンパンマンを使っているから安心」と感じることが、さらに購買を促進させる連鎖につながっているのです。

このように、アンパンマンは、感情と行動の両面から消費者の選択に影響を与えるナッジとして、非常に優れたブランド展開を行っているのです。

教育と商品戦略のバランス

アンパンマンは、教育的価値と商業的戦略が見事に両立している、非常に稀有なコンテンツです。

行動経済学の視点から見ると、これは「価値の二重構造(dual value)」と呼ばれる考え方に近く、子どもには楽しいという感情的価値を、親には、ためになるという合理的価値を同時に提供していると言えます。

特に幼児教育の観点から、アンパンマンの世界は「助け合い」「思いやり」「正義」といった社会性の基礎を学ぶ場として高く評価されています。

例えば、総務省が公表した「子ども・子育て白書(令和6年度)」では、幼児向けコンテンツに求められる要素として「情操教育への配慮」や「善悪の理解を促す内容」が挙げられており、アンパンマンはまさにそれを体現する作品です。令和6年版こども白書

しかし同時に、アンパンマンは関連グッズや施設、食品など幅広い商品展開を行い、年商1,000億円規模の市場を形成しています。(日本経済新聞 2023年10月20日記事より)

これは「教育とビジネスの共存」が成立している証拠であり、行動経済学的に見ると「親の合理的選好(rational choice)」と「子どもの感情的選好(emotional preference)」を両方満たすポジショニングに成功している例です。

また、アンパンマンミュージアムでは「パン作り体験」や「キャラクターと触れ合える演出」など、教育的要素を盛り込んだ体験型コンテンツが多く設計されています。

これは「教育消費(edutainment)」としての価値を強め、親子双方にとって有意義な時間としてブランド体験が記憶に残る仕組みです。

このように、アンパンマンは教育と商業のバランスをとることで、「ただ売れる」だけでなく「長く愛され続ける」キャラクターとして、親子双方に選ばれているのです。

他キャラクターとの比較で見るアンパンマンの強み

 ディズニーやポケモンとの違いは?

アンパンマンが長年にわたり支持され続けている理由のひとつは、他の有名キャラクター、たとえばディズニーキャラクターやポケモンとは異なる設計思想にあります。

ディズニーやポケモンはストーリー性やエンタメ性、キャラクターの多様性を重視していますが、アンパンマンは「幼児の安心感」を最優先したシンプルかつ明快な構造が特徴です。

行動経済学的に見ると、これは「選択のパラドックス(paradox of choice)」を避けている点が挙げられます。

ポケモンのように多くのキャラクターから好きを選ばせる設計は一定の年齢層には魅力的ですが、幼児には逆に選択肢が多すぎてストレスを感じる可能性があります。

一方でアンパンマンは、「アンパンマン=助けてくれる存在」という単一の軸があり、子どもにとって迷わないキャラクターなのです。

また、ディズニーキャラクターには、複雑な感情表現やストーリー背景が求められます。

これに比べてアンパンマンの物語は、「悪者が登場する → 助ける → 解決する」という極めて単純な流れで進行します。

これは幼児の理解力や共感能力の発達段階にマッチしており、結果として「安心して見られる」存在として定着しています。

さらに、レセマムによる「子どもが選ぶ好きなキャラクター」調査では、2022年時点でもアンパンマンが未就学児層で圧倒的な人気を誇っており「アンパンマン」1位に返り咲き、アナ雪は安定…子ども人気キャラランキング | リセマム、その支持の幅広さは年齢や性別を問わず明らかです。

このように、アンパンマンの強みは情報の少なさや選択のしやすさといった行動経済学的要素に支えられており、他のグローバルキャラクターとは異なる、独自のポジショニングで長期的な人気を維持しているのです。

「与えるヒーロー」がなぜ受け入れられるのか

アンパンマンは、戦って勝つだけのヒーローではなく、自分の顔をちぎって困っている相手に「与える」ヒーローです。

この「自己犠牲型の優しさ」が、他のキャラクターにはない圧倒的な個性となって、子どもたちや保護者の心をつかんでいます。

行動経済学では、「利他的行動(altruistic behavior)」が人間に安心感や信頼感をもたらすことが知られています。

とくに幼児は、道徳的判断を「行動の結果」ではなく「行動の意図」で捉える傾向があるため、アンパンマンが無償で与える存在であることは強い印象を残します(参考:Bloom, P. “Just Babies: The Origins of Good and Evil”, 2013)。

また、「ギブ・ファースト(先に与える)」という行動は、大人にとっても「信頼できる人」として認知される傾向があります。

これは「互恵性バイアス(reciprocity bias)」と呼ばれ、人は何かをもらったら返さなければならないという無意識の義務感を抱く心理メカニズムです。

アンパンマンが「顔を与える」ことで視聴者に好意や信頼感を植えつけ、それが長期的な人気につながっていると考えられます。

さらに、この「与える姿勢」は、企業のブランドイメージとしても非常に有効です。

キャラクターグッズや関連サービスを展開する中で、親たちは教育的に安心できるという観点でアンパンマンを選ぶ傾向にあります。

このように、「勝つヒーロー」ではなく「与えるヒーロー」という立ち位置は、行動経済学的にも非常に強力な戦略です。

アンパンマンは、ただ正義を示すだけでなく、信頼や共感といった人間の本能的な心理に働きかけることで、深く愛される存在になっているのです。

キャラクター開発に活かすヒント

 行動経済学的視点から見る企画のコツ

行動経済学の理論は、キャラクター開発やコンテンツ企画において非常に有用な設計ツールとなります。

特に、アンパンマンの成功に学ぶことで、次世代の人気キャラクターを生み出すためのヒントが得られるでしょう。

まず重要なのは、「選択の簡便性」を意識することです。

アンパンマンの世界では、「ヒーローは1人、敵も1人」というように選択肢が明快で、視聴者が迷うことなくストーリーに入り込める設計になっています。

これは、キャラクター数が多すぎたり、役割が不明瞭だったりするとファンが付きにくくなるという教訓でもあります。

また、「ヒューリスティック」を活用する設計も有効です。

たとえば、「見た瞬間に役割がわかるデザイン」や「直感的に安心できる色使い・声・セリフ」を用意することで、子どもたちが好きになる理由を言語化できなくても自然と惹きつけられるようになります。

さらに、「単純接触効果(mere exposure effect)」も有効に活かすべき心理効果です。

同じキャラクターが何度も登場することで、自然と好感度が上がっていくというこの効果は、シリーズ物やグッズ展開において極めて強力です。

ザイアンスの研究でも、意味のない図形でさえ繰り返し見せることで好まれるようになると証明されています(Zajonc, R. B. 1968)。

キャラクター開発においては、これらの理論を組み合わせ、「理屈ではなく感情で惹かれる」構造をいかに作り込めるかがカギになります。

感情に届くコンテンツの作り方

キャラクターや物語が長く愛されるためには、ただ「わかりやすい」だけではなく、「感情に届く」ことが大切です。

行動経済学の理論では、「感情ヒューリスティック(affect heuristic)」という考え方があり、人は良い気分を与えてくれる対象に、直感的に信頼や好感を抱きやすいとされています(Slovic et al., 2002)。

アンパンマンの物語には、困っている人を助けたり、「ありがとう」と言われたりする優しさが繰り返し描かれています。こうした善意の循環によって視聴者が安心感を得られるように設計されているのです。

これは視聴後にポジティブな感情が残ることで、「また見たい」と思わせる心理的な仕掛けです。さらに、ストーリー展開がシンプルでありながらも、「感情の起伏」があることも注目すべき点です。

たとえば、ばいきんまんに困らされたキャラクターが悲しんだり怒ったりする中で、アンパンマンが登場して助けるという流れは、視聴者の感情を不安から安心へと導きます。

これは「ピーク・エンドの法則(peak-end rule)」と呼ばれる心理現象に対応しており、人は体験全体の評価を、特に印象に残る盛り上がり(ピーク)と終わり方(エンド)によって決めがちであることが知られています。

実際、心理学者ダニエル・カーネマンらの研究(Kahneman et al., 1993 Thinking, Fast and Slow. Farrar, Straus and Giroux.)では、少し長くても終わりが良い体験のほうが、全体的に高評価される傾向があると示されています。

アンパンマンの物語は、クライマックスで正義が勝ち、最後には平和が戻るという展開が定番です。

このような「ポジティブな終わり方」は、子どもたちに心地よさと期待感を残し、視聴習慣の定着に大きく貢献しているのです。

つまり、感情に届くコンテンツを作るには、

  •  共感できる優しさや正義の行動
  • 気持ちの流れ(不安→安心)の設計
  • ポジティブな結末

といった構成が非常に重要であり、アンパンマンはそれを見事に体現した作品といえるでしょう。

長寿キャラクターに共通する心理要素とは

アンパンマンが誕生から30年以上経っても高い人気を維持しているのは、偶然ではありません。

長く愛されるキャラクターには共通する「心理的な設計」があり、それを意識して作られていることが、行動経済学や心理学の視点からも読み取れます。

第一に重要なのは、「予測可能性と一貫性」です。次に、「自己投影のしやすさ」もポイントです。

アンパンマンは強いけれども完璧ではなく、顔が濡れたり欠けたりすると力を失うなど、どこか弱さを持ち合わせています。

これは、心理学における「自己関連性(self-relevance)」に通じており、人は自分との共通点を見つけられる存在に親近感を抱きやすいとされています(Markus, 1977 Self-schemata and processing information about the self. Journal of Personality and Social Psychology, 35(2), 63–78.)。

子どもたちはアンパンマンの強くてやさしいけれど、ときに弱る姿に、自分自身を投影しやすくなるのです。さらに、名前・形・色といった視覚・聴覚的な特徴にも、「覚えやすさ」の設計がなされています。

前述のように、ザイアンスによる「単純接触効果(mere exposure effect)」の理論に基づき、何度も目にするうちに自然と好感を抱く仕組みが構築されています。

アンパンマンの丸い顔・明るい色・やさしい声といった要素が、繰り返し登場することで、子どもたちの記憶にしっかりと残っていくのです。

このように、長寿キャラクターには共通して、

  • 変わらない安心感
  • 共感できる弱さと強さのバランス
  •  覚えやすく繰り返し接する設計

といった人の心理に寄り添う仕掛けが見られます。

アンパンマンは、まさにそれらを体現し続けているキャラクターであり、行動経済学的にも極めて優れたモデルといえるでしょう。

まとめ

アンパンマンが子どもたちから長く愛されている理由は、ただの人気キャラクターだからではありません。

行動経済学や心理学の視点から見てみると、その人気にはいくつもの「人間の心理に働きかける仕掛け」があることがわかります。たとえば、毎回同じようなストーリーやセリフの繰り返しは、「予測できる安心感」や「単純接触効果」によって、子どもたちの心に自然と親しみを与えています。

また、「アンパンマン=助けてくれる存在」という明快な構図は、複雑な判断をせずとも味方と認識できるヒューリスティックの働きによるものです。

さらに、自分の顔を分け与えるという与えるヒーローの姿勢は、利他性や感情ヒューリスティックを通じて、見る人に信頼感と温かさを届けています。

こうした構造が、「また見たい」「応援したい」と思わせる強い感情的つながりを生んでいるのです。

そして何より、アンパンマンは視覚・言語・感情といったあらゆる面で「子どもが理解しやすい」ように作り込まれています。これは、長く愛され続けるキャラクターに共通する特徴でもあり、マーケティングや教育の観点からも大きなヒントになります。

つまり、アンパンマンの人気の秘密は、子どもの気持ちになって考え抜かれた設計にあります。

これはまさに、行動経済学が教えてくれる「人の選択や感情に働きかける力」がうまく使われている例だといえるでしょう。

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執筆者
遠藤 貴則法廷臨床心理学博士 Takanori K. Endo

世界40ヵ国以上から累計23万人以上が受講する国際的スピーカー、トレーナー、元アルビズ大学准教授。

アメリカ、オレゴン州のルイス&クラーク大学で心理学で学士を取り、フロリダ州のアルビズ大学にて心理学の修士と臨床心理学、法廷特化の博士号を取得。2015年にオレゴン州の臨床心理学者としての国家治療免状を得る。過去にアメリカ心理学会、国際心理学会、アメリカ法廷心理学会など数多くの学会で研究を発表している。

日本帰国後は日々実践できる科学をテーマにニューロマーケティング(神経マーケティング)、教育学、経営学、統計学などを教え述べ23万人以上の講演会を開催。

プロフィール詳細はこちら

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